映画『約束~名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯~』

映画「約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯」が渋谷のユーロスペースで上映されています。この映画は、無実を訴え続けている奥西勝さんの闘いを描いたもので、主人公の奥西さん役に仲代達矢さん、息子の無罪を信じ続ける母タツノさん(故人)役に樹木希林さん、若き奥西さん役に山本太郎さん、支援活動を続けた川村富佐吉さん(故人)役に天野鎮雄さんなどが扮するドラマと実際のドキュメンタリーとで構成されています。

 

映画「約束」事件前の名張市葛尾-おそらく当時の日本のどこにでも見られた風景の中で奥さんと二人の子どもと暮らす若き日の奥西さん。ランドセルを背負って小学校へ入学するのを楽しみにしている幼い娘、かわいい妹をからかう兄、それを微笑んでみる奥西さん夫婦。その後の現実の展開を知っているだけに胸が締め付けられる思いで画面にくぎ付けになってしまいます。

 

拘置所の中で、毎朝、死刑の恐怖に抗いながら生きる日常。「昼飯を食べられるということは、その日の命が助かったということだ」という言葉が重く、映画を見ているうちに心の底から怒りが込み上げきました。

厚い壁を破っての再審開始決定、取り消し、最高裁差し戻し決定、二年以上を経ての取り消し、再び最高裁へ・・・。弁護団が明白な無実の証拠を提出しても、それには、正面からは答えず、〈極刑となる犯罪を犯人でない人間が自白することなどありえない〉〈自白を疑う理由はみじんもない〉とまで言い切る裁判官。自己の良心に沿って再審開始決定をした裁判官が裁判所を辞めていき、有罪を維持した裁判官が、出世コースを歩む理不尽さ。日本の司法に対する絶望を抑えることができなくなります。

封切り日は出演者の舞台挨拶もあって、会場は超満員だったようです。歓声が上がる映画ではありません。しかし、映画館にいた人々は、司法への怒りとこれはえん罪だとの確信を得たはずだ。もともとはテレビ作品として作られたものですが、映画館という空間であれば、多くの人が集まって見ることで思いをひとつにすることができます。

 

「見知った役者が出てるから見てみよう、となればいいと思う。この映画をたくさんの人に見てもらいたいから」(樹木希林さん)、「奥西さんは間違いなく無罪。僕にしても、樹木希林さんにしても、ほかの共演者にしても、決意を持ってこの映画に出演している。」(仲代達也さん)、「裁判所は真実を明らかにする場所と信じていたのに、実際には縦社会で、先輩が一度下した判決をなかなか覆すことができない。そんな司法の理不尽さに対する憤りが、作品作りの源になっています」(齊藤潤一監督)。

地元の東海テレビがこのような作品を作り続け、仲代達矢・樹木希林・山本太郎など著名な俳優がまだ無罪と確定してはいない〈死刑囚〉の映画に出演するのは、名張の裁判を知れば知るほど、有罪判決のおかしさを確信するからでしょう。スタッフ、出演者の勇気と情熱に敬服し、それに応えるために多くの人に劇場に足を運んでもらいたいと思わせる映画です。

 

弁護士金竜介(2012.12.25「青年法律家」寄稿)